大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)222号 判決

1.控訴人主張の一、二の事実については当事者間に争いがない。

2.右の当事者間に争いのない事実によれば、本件登録実用新案の出願公告公報に「登録請求の範囲」として記載されている事項は控訴人主張のとおりであつて、また成立に争いのない甲第二号証によれば、同公報の「実用新案の説明」の項には原判決添附公報写の該当欄と同じ記載があり、かつ同一の図面が示されていることが認められる。

そして、これらの記載によれば、本件実用新案(甲)は壁掛兼用敷台の構造に係るものであつて、その要旨とするところは、

イ、窓1および凹段部2を有する装飾枠主体3を形成すること

ロ、右枠主体3の裏面の四側に脚片4を設けること

ハ、右枠主体3の上下にこれと一体に装飾片7、8を形成し、これに掛着用の孔5、6を設けること

ニ、凹段部2に適宜の図形、文字等を印刷した化粧陶器板9を嵌着すること

右イないしニに掲げた事項を具備することによつて成る壁掛兼用敷台の構造にあるものと認められ、そのねらいとする効果は、

(1)、掛着用の孔5または6を利用して壁等に打ちつけた釘等に掛着して壁掛とすることができ、この場合全体として装飾的効果をもたせうるし、殊に陶器板9に適宜の図形、文字等を焼付印刷しておくことによつて趣味的効果ないしは宣伝広告用としての効果をもたせることができること、またこのように壁掛として使用する場合に脚片4によつて全体を安定させるのに役立たせうること

(2)、他方、壁等から取り外し脚片4を立脚として食卓等に横置して薬罐、どびん等の敷台とすることができ、この場合板9が陶器製であるため、これに熱いものをのせても熱が他の部分に伝わることが少なく、清拭も容易であるし、装飾片7、8は把持するのに都合のよい部分となりうること

が主たるものであると認められる。

3.次に被控訴人らの取扱いにかかる本件物品(乙)が原判決添附の目録および図面に示された構造のものであることについては当事者間に争いがない。そしてこの乙の構造を、「装飾片」その他必ずしも表現として適切と思われない個々の用語に拘泥することなく、本件物品そのものであることにつき当事者間に争いのない検甲第一号証をも参照して全体的に考察するときは、乙は前記図面に示されているように、「全体をバンジヨウ形様とし、その胴部を中央凹状にしてその中央底部を円形の空隙部(1)とし、その空隙部の周囲に凹段部(2)を有する細幅で波形の凹凸模様を附した環状部(3)を設け、その余の胴部(7)および棹部(8)に図示のような模様を形成するように抜孔(5、6)を設け、胴部の裏面周辺部三箇所に脚片(4)をつけ、以上を一体に形成したうえ、前記凹段部に円形鏡板(9)を嵌着し、なお胴部および棹部の抜孔に紐(10)の各端部を結びつけてこれをバンジヨウの吊紐様にしたもの」であるということができる。

4.そこで、前記甲および乙を比較して、はたして乙が甲の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

イ、甲のイの構成との比較

乙における鏡板9を嵌着する凹段部2およびその周囲にある細幅の環状部を合わせたもの(原判決添附目録に「装飾枠主体3」と表示されている部分)が、右鏡板9を保持する作用をなすものであることはこれを認めることができるから、乙は甲のイの構成をそなえているものということができる。しかし、凹段部を有する枠を形成することは額縁、壁掛等の装飾用枠体に普通に用いられている方法であるから、甲乙とも壁掛としての用途をもつことに争いのない右両者の構成上の異同を論ずるうえで、右の点はさして重要性をもつものではない。

ロ、甲のロの構成との比較

乙はその胴部裏面の三側に脚片4を設けており、したがつて、脚片の個数が三個か四個かの点を除いて、両者は一致するといえる。そして、これらの脚片が物品本体をその対応する平面に対し若干の間隔をおいて安定的に保持させる作用をもつ支持片であることは明らかであり、乙の脚片三個が物品主体すなわち乙全体を垂直面に対しても、水平台上においても、安定的に保持するに足る箇所に、ほぼ正三角形の頂点位置に設けられていることは、原判決添附の目録図面および検甲第一号証により明らかである。したがつて、このような支持用脚片を三個とするか四個とするかは、当業者が実施にあたつて適宜に選択しうるところであつて、いわゆる構造上の微差というべきである。

ハ、甲のハの構成との比較

前記認定のように、乙においては、凹段部を有する細幅の環状部の周囲およびその片方に輪郭をバンジヨウ形様とし抜彫模様を施した装飾部(原判決添附目録に「装飾片7、8」と表示されている部分)が形成されている。そして、これらの部分が鏡板9とともに、全体として装飾的効果を有することは明らかであり、また、バンジヨウの棹にあたる部分がその胴部に対し細長い柄のようになつているため、片手で持つのに都合のよい形状をなしているともいえるのであり、一方甲において装飾片7、8の形状につき(把持に便利な部分をそなえていることが予定されているものとみられるほか)特に限定するところがないのであるから、そのかぎりにおいて、乙も甲のハの前段の構成を有するものといえないではない。

次に、甲の孔5、6は、実用新案公報の登録請求の範囲の項に「掛着用孔」と記載され、実用新案の説明の項の中でも壁の釘などに掛けてつるすためのものであることが明示されているのであるが、これに対し乙の抜孔5は、原判決添附図面に示されているように、バンジヨウの胴部にあたるところに唐草様の模様をつけるため彫り抜いた数個の不規則不同の空隙部分であり、また乙の抜孔6は同じくバンジヨウの棹にあたる部分に指板様の模様をつけるために彫り抜いた数個の四角な空隙部分であつて、本来装飾的効果をねらいとして設けたものであると考えられる。しかし、乙においては、抜孔5、6に紐10を掛け渡してバンジヨウの肩吊り紐様に、壁等にこの紐をもつて掛着しうるようになつているのであるから、孔5、6を直接壁等の釘等にかけるものではないにしても、孔5、6はその構造上「掛着用」の性質をも兼ね備えているものということができる。そして、壁掛を壁に掛着する方法として、壁掛に設けた孔により直接釘等にかけるものと、鉤または吊り紐を介して釘等にかけるものとは、いずれも公知の方法であつて、両者間には技術思想のうえでそれほどの差異はないものということができる。したがつて、乙において直接釘等に掛着するのに適した孔をそなえていないからといつて、それだけで乙が甲のハの構成をそなえていないものというわけにはゆかない。

ニ、甲のニの構成との比較

甲は凹段部2に適宜の図形、文字等を焼付印刷した化粧陶器板9を嵌着しているのに対して、乙は凹段部2に鏡板9を嵌着したものである。

ところで、甲の陶器板9は、それ自体にも右のような図形、文字等の焼付印刷がなされており、壁掛として使用する場合には、枠主体が装飾的でありかつその上下に装飾片7、8を有することと相まつて、全体としてきわめて美麗で趣味的あるいは宣伝広告用として好適であるばかりでなく、敷台として使用する場合には右の装飾等の効果のほかに、化粧陶器板9が薬罐、どびん等の敷台となり、この場合板9が陶器板なるが故に熱が他の部分に影響することが少なく、かつ清拭も容易であるという効果を有するものとされ、このことは実用新案公報の実用新案の説明の項に明記されており、これらの効果は甲のもつ効果のうちでも重要なものというべきである。登録請求の範囲の項にも、特に「適宜の図形、文字等を焼付印刷した化粧陶器板」と記載されているところからみても、甲においては、右のような化粧陶器板を用いることが、考案を構成する重要な要素をなすものと認めるのが相当である。むしろ、この化粧陶器板は、甲において、壁掛としては、あたかも額縁にはめられた絵画のような眼目的な部分であるとともに、敷台としては物を載置する主体的部分ともなることが予定されているものといつても過言ではないであろう。

一方、乙における鏡板9は、円形鏡板であるということのほか特にそれ自体に装飾的要素を附加されたものではなく、またその大きさも直径約五センチメートル(バンジヨウ形胴部の直径の約三分の一)のものにすぎないことが検甲第一号証によつて認められるけれども(あるいは、その程度の大きさであることのために)、乙の全体のうちで適当に装飾的効果を有するものといえよう。しかし、これとても、鏡板9が単純な円形鏡板にすぎない以上、甲における「適宜の図形、文字等を焼付印刷した化粧陶器板9」について先に認定したのと同様の装飾的、宣伝広告的効果を有しえないことは明らかである。そのかわり、乙の鏡板9にあつては、壁掛とした場合に、掛ける高さを適当にしておけば、顔の一部等をうつしたり、ネクタイ等の装身具を装着したりするのに利用できるという効用を有するともいえる。しかし、いずれにせよ、乙が壁掛として使用しうるという点に関するかぎり当事者間に争いのないところであるから、右の点はしばらくこれをおくとしても、乙の鏡板9が、その材質および大きさの点からみて甲における化粧陶器板9と同様の敷台の主体部として使用するのに不適当なものであることは否定できないところである。すなわち、乙の鏡板9は前記のような小径のもので、薬罐、どびんの類を直接に載置するものとしては小さすぎるばかりでなく、鏡板を食器等を直接載置する台として使用すれば破損のおそれがあることが明らかであつて、このような使用方法は実際上普通には行なわれないものといえるし、また薬罐、どびんの類でその底面が鏡板9よりも広いものを載せるとしても、その使用に際し鏡板を破損するおそれのあることは十分考えられるばかりでなく、検甲第一号証によれば乙のバンジヨウ形胴部および棹部(3、7、8)は鉄材で一体に形成されたものであることが認められるから、右のように薬罐、どびんの類を鏡板にふれないようにその周囲の部分で支持するようにして載せた場合、熱が容易に伝導され、バンジヨウの棹形部にまで及ぶことはみやすいところであつて、この場合、鏡板9としては、甲における陶器板9について強調されている――薬罐、どびんのような熱いものを載せても熱の影響を他に及ぼさないという――効果を全然奏していないことはいうまでもない。いずれにせよ、乙における鏡板9が甲の化粧陶器板9と同様の作用効果を有するものとみるのは妥当でなく、この意味で鏡板9が甲の化粧陶器板9と均等の関係にあるとみるのは困難であり、結局乙は甲におけるニの構成要件をそなえていないものと認めるのが相当である。

以上乙の構成を甲の各構成要件と対比して検討したところを総合すれば、甲は壁掛と敷台と両様に使用するのに適した構造を有し、特に化粧陶器板9が敷台として兼用するについて陶器板であることによる重要な効果を奏し重要な構成要素をなすものであるが、これに対し、乙にあつては甲における化粧陶器板9と均等の関係にあると認めうべき構成要素を欠いており、バンジヨウ形の本体部と吊紐とをもつて、これを全体として、壁掛に使用するのには適しているけれども、これを甲と同様の敷台に兼用しうるものとみることが甚だしく妥当を欠くような構造になつているものといわねばならない。乙において、その裏面に三個の脚片を有することは前記のとおりであるが、これは壁掛として使用する場合中央が凹んでいる乙を壁等に対し安定させる用をなすことは明らかであり(甲における脚片についても、同様の安定支持の効果を有することが公報に記載されている)、また、乙のような物品でも――甲のような敷台にするというのでなく――時に水平の台上に置くことはありうるし、その場合に全体がぐらつかないような位置に三個の脚片をつけておいた方が便宜であることは容易にうなづけることである(水平の台上に安定して横置することが可能であるということと、これを甲のような敷台に用いうるということとは直ちに結びつくものではない)。なお、乙におけるバンジヨウの棹部に相当する部分がこれを手に持つのに都合のよい柄状をなしているといえないこともないが、これは全体の輪郭をバンジヨウの形に模した結果にすぎないといえる。いずれにせよ、これらの点は、乙が甲と同様の敷台として兼用するに適した構造を有するとの控訴人の主張を支持する根拠とするに足りないものというべきであり、乙が甲における前記ニの構成要件をそなえていないものである以上、乙は甲の技術的範囲に属しないものというほかはない。成立に争いのない甲第三号証(鑑定書)に示されている右に反する見解は採用することができない。

5.以上説明のとおりで、乙が甲の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点の判断をするまでもなく失当である。

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